人気のないオリジナルコーヒー
薄暗い店内。
手元だけ照らされているカウンター席が4つ。後ろに置いてある水槽にはカメ2匹が入っている。入り口、入ってすぐ足元に置いてある小さな本棚にはコーヒーの本ががっしりと詰まっていた。
マスターがコーヒーを淹れている間は誰も口を開こうとはしない。ただ、コーヒーの滴る音とマスターの握るポットだけが動いている。
服の袖から伸びる刺青が、より独特な雰囲気を醸し出していた。
マスターの年齢は確か30前後と聞いた。コーヒーが好きで、何度もヨーロッパへ行き、コーヒーを学んできたと言う。
ぼくはペルーのコーヒーを一杯飲んだ後、帰り際に、オリジナルブレンドを100グラム頼んだ。するとマスターは「かなり癖がありますよ。」と一言。ぼくは自分の家で淹れる前に、マスターの淹れたものを飲んでおこうと、帰る前にもう1杯頼んだ。当然、本人が淹れたのが本物の味。まずは正解を知っておきたいと思ったのだ。
確かに、この人の作るコーヒーなのだから一癖二癖はありそうだ。飲む前からいろいろと想像して楽しんだ。もしかすると日本で親しまれているコーヒーはジャパニーズコーヒーであって、世界では通用しないのか。インドのカレーも日本では日本人の口に合うカレーに変わるように。また、中国料理も然り、本場の中華料理界では認められないのではないだろうか。そう考えると、世界を旅するマスターの作るコーヒーにとても興味が湧いた。
マスターの言う癖とは、日本人の口に対してか、それとも世界に向けた言葉なのか、どちらであっても、コーヒーのプロとしては挑戦的な言葉に聞こえた。
そして実際に飲んでみた。
これは癖があると言われなくても、何かに気づきそうな味。いや、癖があると言われなければ、自分の淹れ方に問題があったかと、悩まされるところだった。
これも一つのコーヒー。
まずは美味しいと言っておこう。
そして感想。舌に残る苦味には品の良さは感じられない。少しエスニックのような荒さを感じつつも、優しさを忘れないコクと深み。鼻に抜ける香りは深い苦味とは打って変わって軽やかだった。確かに癖がある。
そして同時にクセとなる味。慣れない味にもう一度、喉元過ぎればすぐに一口含みたくなる。飲むたびコクと苦味が舌全体を抑え込む。好き嫌いは別れるだろう。もしかするとか好んでいつも飲みたいと言う人は少ないかもしれない。
しかしそれでも、これが自分のオリジナルブレンドだと提供するマスターは筋金入りだ。
そして自分の家でも、マスターと同じ抽出方法で淹れてみた。同じ味を出せた時の喜びは大きい。脳裏には薄暗い店内と、コーヒーポットを握るマスターの手が思い起こされる。
マスターの体にはコーヒーにまつわる歴史が刺青として彫られているらしい。確かに、手の甲には、さりげなくコーヒーカップとコーヒーの実が描かれていた。
また行く日には、
もう一度 同じコーヒーを頼むだろう。
ここでしか飲めない癖のあるコーヒー。
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