てくてく日和

Fiction&NonFiction 20代男一人暮らしの趣味ブログ

穴に落ちた日

ある日 私は穴に落ちた。
深さは 私の身長の1.5倍ほど。

よそ見をしていたら落ちてしまったのだ。
人通りの少ない路地裏。

 

大きな声で穴から出してほしいと
誰かに助けを求めるのは恥ずかしい。

 

かと言って黙っていては

今日中に家に帰れる保証はない。

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すると

少々くたびれた服を着る

貧しいおじいさんが通りかかった。

 

すみませんと声をかけると、
おじいさんは私に気づき
「助けてあげるから待っていなさい」
と言い残し、1本のロープを持って来た。


垂らされた1本のロープを握ると

心もとなく少し残念な気持ちになった。

 

思っていたとおり。
上でロープを握るおじいさんは

私の体重を支えきれずに手を離し、

私は「ドン」っと穴の底に尻餅をついた。

 

おじいさんは
着ていた服についた汚れを払っていた。

するとおじいさんは「もう時間がない」
と言いってロープを持って行ってしまった。

 

 

 

それからいくらか時間が経ち、

男性の若者が穴の縁を通って行った。

 

背は高くなく細身の若者。

声をかけるか迷ったが、

そうそう人の通る道でもない。

 

通りかかった人には

助けを求めようと決めた。

 

すると

若者は少しの迷いは見せたものの

声を発する事もなく通り過ぎて行った。

 

何の迷いかは分からない。

もしかすると人通りの多い道なら

助けてくれたのではないだろうか。

 

ここで私を助けても

誰からも評価されないのは紛れもない事実だ。

 

最近の若者はこれ程だろうと

心の中で落胆した。

 

1本のロープが残っていれば、

今の若者は私を助けることが

出来たのではないだろうか。

 

 

 

それからいくらか時間が経った。

心の中では体格の良い

若者が通ってくれないかと期待していた。

 

するとスーツを着た

見るからに金持ちそうな髭のおじさんが

通りかかった。

 

私はきっと無視されると

期待せず、彼に助けを求めた。

 

1人目のおじいさんですら

自分の服の汚れを気にしていたのだ。

 

しかし、

私は同じように声をかけると驚いた。


髭のおじさんは一瞬焦るような面持ちになり

迷うことなくこの穴の中に降りてきたのだ。

 

そして 下から私の腰を

一生懸命に持ち上げ穴から出すと、

髭のおじさんは自分の力で穴から出てきた。

 

私は礼を言うよりも先に、

泥で汚れてしまったスーツが気になり

申し訳なく感じた。

 

髭のおじさんは

私の前で土を払う事はせず

感謝を求める事もなく立ち去って行った。

 

私は彼の背中を見つめながら感謝を伝えた。

 

 

 

誰にもみられず、

誰からも評価されない路地裏での出来事。

 

人は人に見られていないと

感情に素直なものだ。

 

その人が何を

大切にしているのか よく分かる。

 

もし通りかかったのが自分だとしたら

何を考え どう動くだろうか。

 

 

 

では今日はここら辺で。